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ラ ドル知ヱ 美ータ。


イタリア旅行記/本/ライブ/映画/アート/まちあるきetc
by kaioko

フィレンツェにて

今回はフィレンツェの空港を利用する。イタリアに着いた日と帰国の前日に滞在し、まる1日をフィレンツェ観光にあてることができた。
今回は、ピッティ宮以外は行ったことのないアルノ河の向こうを少し歩いてみた。折からの雨でアルノ河も茶色く濁っている。
フィレンツェにて_b0068541_2322299.jpg


いきなりだが、帰る日のことを書きとどめておきたいと思う。その日のフライトは朝10時台で、そこから逆算して7時にホテルを出た。この日も朝から雨で、スーツケースをゴロゴロひきずりながら駅前近くのSITA社のバスターミナルまで歩く。
バスを待っていると、一人の日本人男性に話しかけられた。切符を買ってくる間、ちょっと荷物を見ていてほしいと。そうして、ものの1分も経たないうちに戻ってきたところをみると大分慣れている方のようである。話し始めると、彼は仕事でフィレンツェに滞在していたとのことだった。その仕事というのは、服の仕立て屋。日本で洋服店を開いていて、イタリア、主にフィレンツェで仕入れをするために2ヶ月ほど滞在することを十数年続けられているとのことである。彼の洋服の仕立て方というのは「イタリア式」で、世界の紳士服の潮流はこの「イタリア式」と「イギリス式」の二つに分けられ、後者が圧倒的なシェアを占めるとのことであり、前者は日本でいうと彼を含めて三人しか仕立てる職人がいないとのことであった。ふたつの仕立て方の違いとは何か。そう聞くと、彼はまずその精神面から話し始めた。曰く、なんのために服を仕立てるのか、その究極の目的は「イギリス式」はやはり、「女王」のため、なのだという。一方、「イタリア式」は、「男は美しくあれ(女性のために)」ということが根本にあるようだ。技術面でいうと、「イギリス式」はバスト寸法さえ分かれば、その数値の代入により、他の寸法が解として求められ、ある程度型紙が出来てしまうそうである。一方、「イタリア式」は、とにかく腕、型、と部分部分を徹底して作り、最後に合体して出来上がるというイメージだそうで、こちらのほうがいろいろなことができるということであった。空港行きのバスが来た。
実は今回の出張は、仕立て屋になられる前のお仕事の繋がりで、ここフィレンツェで行われた「日本映画祭」のオーガナイザーのような仕事をしに臨時で来ていたという。私は、前述のように川向こうに行っていたので、知る由もなかったが、前日のチェントロでは、「フィレンツェを着物で歩こう」というようなツアーの一環で、着物を着た日本人女性がフィレンツェを練り歩くイベントや日本刀を使ったダンサーのパフォーマンスなどもあったそうだ。この「日本映画祭」は二回目を数え、今回はパナソニック、HIS、ヤクルトといった日本のスポンサーも付いた大きなイベントだったようである。
彼は少し複雑な表情でこのイベントを振り返る。文化交流というのは難しい・・・自国の文化をどのように外国の方たちに見せるか、は外国の方が日本人をどのように見るのかをよく考えなければ、間違ったプレゼンテーションになってしまう。かといって、日本特有の精神性のようなものを真面目に伝えようとすると、政治や宗教やいろいろなことが絡んでくるし、ある程度のエンターテイメント性がなければ誰も興味を持ってくれない。その加減が難しいし、日本人としてどうみられるのか、あるいはどう見られたいのかという意識がまだ根付いていないのではないか、そんな意味のようなことを話してくれた。
彼がこのようなことを考えるようになったのは、たまたまミラ・ショーンの通訳をしていた女性が、彼の仕事の通訳になってくれた時に彼女が話してくれた事がきっかけだったという。彼女は、ツアーアテンダントのような仕事もしており、その仕事について、「ツアーアテンダントの仕事というのは、まったくこの土地の文化を知らない方たちを外国にお連れした時に、彼らの歩いた足あとを後ろからそっとそろえて行く仕事なのだ」と。たとえば、日本の旅行会社の社員向けのテキストの1ページ目に、この言葉が書いてあったら、ツアーアテンダントの心持ちも変わって、ひいては日本の旅行者も変わるだろう。彼はそんなことを言っていた。
イタリアに在中のツアーアテンダントの中にも、たとえば駅前の危ない場所でフリータイムをとってしまったり、意外とフィレンツェの町自体を知らないアルバイト感覚のアテンダントもいるそうである。そういう人たちはきっと先頭にたって、次から次へと異文化の中を土足で観光客をひっぱりまわすのかもしれない。そのミラ・ショーンの通訳の女性は、お客さんをそっと異文化の中に置いて、少しだけ旅行者たちがそこにいた跡を残して帰る、そんなイメージだ。そんな人にアテンドしてもらった旅行者は幸せだろう。でもまずは、「異文化の中の日本人としての自分」というものを持つことが、自分の足あとをきれいにしていくことに繋がるのかもしれない。
私はイタリアはいつも一人旅でいわゆる添乗員付きの旅行をしたことがないので、後ろから見てくれる人もいない。でも外国ではそういった日本人としての責任のようなものも肩に乗せて旅行しなければならない、ということを初めて考えて、本当に彼の話や、通訳の女性のこの話をいろいろな人に聞いて考えてもらいたい、と思った。
その後、彼はパリ経由で帰国。イタリアでまたお会いできるといいですねといって別れる。これから冬服の仮縫いで大忙しだそうである。
by kaioko | 2010-11-18 23:06 | トスカーナ2010・11

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